小さな介護施設だからこそ実現できる持続可能な経営戦略
小さな介護施設経営は「建物」ではなく「仕組み」を経営する時代へ
介護施設経営を検討している方の多くは、「何床あれば利益が出るのか」「どのくらいの初期投資が必要なのか」といった点から考え始めます。
もちろん、建物や立地、資金計画は重要な要素です。しかし、介護施設経営を30年以上続けてきた経験からお伝えしたいのは、介護施設経営は建物を経営する事業ではなく、利用者の暮らしを支える仕組みを経営する事業であるということです。
近年は介護事業者の倒産件数も増加し、人材不足や物価高騰など、経営環境は決して楽ではありません。そのような時代だからこそ、施設単体で利益を生み出そうとする発想ではなく、複数の事業を連携させた経営モデルが重要になります。
私たちが実践してきたのは、「介護施設」「訪問介護」「訪問看護」の3事業を一体で運営するモデルです。この考え方が、小規模でも安定した介護施設経営につながっています。
介護施設経営を支える「3事業モデル」とは
小さな介護施設経営では、次の3つの事業を一つの経営システムとして設計することが重要です。
1. 住宅型有料老人ホームを経営基盤にする
住宅型有料老人ホームでは、家賃収入が安定した経営基盤となります。
例えば19床の施設で、1室あたり約10万円の家賃収入を確保できれば、毎月約190万円の売上が見込めます。
しかし、この家賃収入だけで十分な利益を確保することは容易ではありません。建物維持費や人件費、光熱費などを考えると、施設単体の収益だけに依存する経営には限界があります。
そのため、建物を収益源として考えるのではなく、利用者へ提供するサービス全体で利益を生み出す設計が必要になります。
2. 訪問介護が施設運営を支える
住宅型有料老人ホームでは、入居者への介護サービスが欠かせません。
訪問介護事業所を併設することで、施設利用者へ必要な介護サービスを提供できるだけでなく、介護保険制度を活用した安定した収益基盤を構築できます。
施設と訪問介護が連携することで、サービス品質の向上と経営効率の両立が可能になります。
3. 訪問看護が収益と地域連携を強化する
訪問看護は、小規模な介護施設経営において非常に重要な役割を担います。
医療ニーズの高い利用者への支援だけでなく、地域の在宅利用者にもサービスを提供できるため、施設外からの収益も確保できます。
私たちの経営では、訪問介護と訪問看護を合わせて、入居者一人あたり月50万円以上の売上を一つの目標としています。
つまり、小さな介護施設であっても、介護・看護サービスを組み合わせることで、大規模施設に負けない経営基盤を築くことが可能になります。
介護施設経営は「開業する順番」が成功を左右する
介護施設経営では、何を始めるかだけでなく、「どの順番で始めるか」も非常に重要です。
私がおすすめしているのは、まず訪問看護ステーションを開設することです。
訪問看護は地域の利用者を支援しながら実績を積み重ねられるため、医療機関やケアマネジャーとの信頼関係を築きやすくなります。
その後に住宅型有料老人ホームを開設すれば、施設入居者へのサービス提供もスムーズに開始できます。
訪問介護については、施設開設と同時にスタートすることで、入居者へのサービスを中心に無理なく事業を軌道へ乗せることができます。
このように、開業の順番を工夫することで、初期の経営リスクを抑えながら事業を成長させることができます。
最初からすべて自社運営にこだわる必要はない
介護施設経営を始める際、「すべての事業を自社で運営しなければならない」と考える必要はありません。
人材や資金が十分に整っていない場合は、訪問介護や訪問看護を地域の事業者と連携してスタートすることも一つの方法です。
事業が成長し、組織体制が整った段階で自社運営へ移行すれば、無理なく経営基盤を強化できます。
大切なのは理想を追い求めることではなく、持続可能な経営を実現することです。
将来は居宅介護支援事業所や共生型モデルも視野に
3事業が安定した後は、居宅介護支援事業所の開設も有力な選択肢となります。
ケアマネジャーが加わることで地域との接点が増え、利用者一人ひとりに合わせた包括的な支援が実現できます。
さらに今後は、高齢者だけでなく障害福祉や医療との連携を視野に入れた「共生型住宅型有料老人ホーム」のような新しいモデルにも注目が集まっています。
制度ごとにサービスを分けるのではなく、「暮らし」を中心に支援を組み立てることが、これからの介護施設経営には求められるでしょう。
まとめ|介護施設経営で大切なのは「事業全体を設計する視点」
介護施設経営は、建物を建てることがゴールではありません。
住宅型有料老人ホームを中心に、訪問介護・訪問看護・将来的には居宅介護支援事業所までを一体的に設計することで、小規模でも安定した経営基盤を築くことができます。
介護業界は、人材不足や制度改定など、経営環境が大きく変化しています。その中で持続的に成長するためには、「施設を運営する」という発想から、「地域包括ケアの仕組みを経営する」という視点へ転換することが重要です。
これから介護施設経営を目指す方は、建物の規模だけではなく、介護・看護・地域連携を含めた事業全体の設計を考えてみてください。それこそが、小さな介護施設でも長く選ばれ、地域に必要とされる経営への第一歩になるはずです。